
海上保安庁は2025年7月31日(木)から8月5日(火)にかけて、測量船「平洋(HL-11)」によるトカラ列島周辺海域の海底地形調査を実施した。調査は、同年6月21日(金)以降に悪石島と小宝島の間で発生した群発地震を受けて行われたもので、地震活動の背景にある地質構造の把握と、火山活動の兆候の有無を確認することを目的として実施された。
「平洋」は、総トン数4,000トン、全長103メートル、幅16メートルの海上保安庁所属の測量船で、2020年1月に就役。最新鋭のマルチビーム音響測深機を搭載し、海底の地形を広範囲かつ高精度に計測する能力を持つ。今回の調査では、悪石島・小宝島・宝島周辺を対象に、地震活動前の2010年に取得したデータと照合可能な海底地形データを収集した。
調査の結果、悪石島と小宝島の間で発生した群発地震の震源域において、過去の地形データと比較した限りでは、新たな火口や隆起などの顕著な地形変化は確認されなかった。海底での噴火を示す痕跡も見られず、海面上でも変色水や浮遊物などの兆候は観測されていない。
一方、「平洋」による音響反射記録の解析からは、小宝島、宝島の周辺、ならびに白浜曽根、五号曽根、中ノ曽根タコなどの海底の高まり付近で、水深120メートルから640メートルの範囲においてガスや熱水の噴気活動が複数地点で確認された。これらは海底から上昇する噴気がソナーによって捉えられたもので、計17地点で存在が明らかとなった。
これまでにも白浜曽根などで噴気活動は報告されていたが、「平洋」による今回の調査では、その分布範囲がより広域に及んでいることが初めて示された。調査で確認された噴気の位置や分布状況は、火山活動の存在を示唆するものであり、京都大学火山防災研究センターの中道治久教授も「若尊カルデラのような海底火山でも見られる現象で、火山活動の存在を示す」とコメントしている。
悪石島、小宝島、宝島は、桜島や諏訪之瀬島などの活火山が並ぶ火山フロント上に位置しており、地質学的にも古い火山体による高まりとされている。今回「平洋」が収集した詳細な地形および噴気活動のデータは、群発地震の成因解明に向けた重要な手がかりとなり得る。
また、宝島では地震活動に伴う数センチ単位の地殻変動も観測されているが、このような微小な変動はマルチビーム音響測深機による水中計測では検出困難であることも報告されている。今後、海上保安庁が得た「平洋」の調査結果と、他の研究機関が行う陸上および衛星による観測結果とを統合的に解析することで、群発地震と火山活動との関係性に関する理解が深まることが期待されている。
「平洋」による今回の調査は、群発地震後の海底状況を網羅的に把握した初の大規模な調査となり、今後の防災・減災対策や研究活動への活用が見込まれている。
情報発表元:海上保安庁 - トカラ列島周辺海域にて地震後初の海底地形調査を実施~地震活動の原因解明に資する基礎情報としての活用が期待~【関連ジャンル】 船舶 : HL-11 平洋 海運事業者 : 海上保安庁